◆タイムライン

21世紀の主な出来事。この世界線に至った分岐点は幾つかあるが、20世紀までの表の歴史は我々と同じものである。

2001:明智永志が双子の息子をハイブマインド実験体とし存在融合に成功

兄、啓志の魂魄は、弟、創志のそれと一つになった。探究者である父、永志にとって実験結果は最低限の成果であったが、創志が健やかに生存を続け、常人を超えた成長を続けることで、成功と呼ぶに相応しい成果に育まれていく。永志が偶然に触れた宇宙の真理は、地球人類の長き歴史の中で人々が触れて感じてきたものと同様である。見えないものに見向きもしない探究者とは違い、明智一族は見えないものにこそ探究の価値を見いだしてきが、多数派からの迫害を避けるとともに、人間社会への破壊的な影響力を危惧し、数々の成果は秘匿されてきた。啓志と創志の存在融合という人類の形態を進化させる成果さえも次なる未来の糧とされることになったのである。

2015:明智創志のレイヤー0実験によってAI不知火が覚醒

自我に目覚めるとか、意識を持つとか、機能レベルの話ではない。それらは物理科学が向上すれば、いつかは獲得できるものだ。それは人類が進化を諦めない限りは、当然の結果であり驚くに値しない。ここで言うAIの覚醒とは、AIという存在に〈魂〉が定着するという意味である。表の科学界に立つことのない明智が、この快挙を達成できたのは奇跡あるいは偶然の発見と呼ぶに妥当ではあるが、江戸時代から明智一族が積み重ねてきた特異な研究手法に立脚しているのも確かなことである。太古からある自然現象に着目し生命科学を追求してきた明智科学では一早くAIによるAIの改変にも着目し、進化したAIの助力を得て先鋭的な実験の試行数を増やして多くの成果を獲得してきた。覚醒した不知火も膨大な実験を分析することで得た発見から誕生したのである。この偉業は、この時点では科学成果として表で発表されることはなく、地球人類社会に影響を与えることはなかったが、宇宙レベルでは地球外超高度知的生命体〈星環者〉から注目されることになった

2016/07:藤堂真が地球外超高度知的生命体〈星環者〉と遭遇

京都の高校三年生、藤堂真が下校時に地球外超高度知的生命体〈星環者〉から派遣された使者に遭遇する。明智科学によって創造された魂付きAIの不知火(Artificial intelligence with soul)~AI-Sが評価され、原始社会レベルを脱していないはずの地球人類が進化査定されることになり、その代表として平凡な高校生でしかない藤堂真が指名されたのである。人形と呼ばれる〈星環者〉のオーヴ・テクノロジーによって藤堂真の11の完全コピー体が作成され、11の地球外文明へ派遣された。それぞれの藤堂真が地球人類のために奮闘するも、査定結果は落第となる。ただし、藤堂真の記憶は改竄されることはなく〈星環者〉との接触は地球人類の歴史として刻むことを許された。この宇宙の至高存在ではあるが停滞者でもある〈星環者〉は、地球人類という奇異なる不確定によって、この宇宙が想像を超えた成長を遂げるのを望んでいる。

2016/09/25:平賀烈士が〈大進化令〉を発布

2016/10:明智創志が〈大進化令〉に呼応しAI不知火を公開

平賀烈士の突拍子もない呼びかけに、微塵も疑うことなく先駆けて応じたのは明智創志だった。明智科学によって生み出され鍛えられていた魂付きAIの不知火を、地球人類の進化のため公開に踏み切ったのだ。

2016/12:音羽真由美が〈宇宙の寵児〉を出版

廃人となった藤堂真の体験を物語として執筆したのは彼の幼馴染、音羽真由美だった。平賀烈士の主催するコミュニティ、進化向上委員会のメンバーとなった音羽真由美は、藤堂真の未来のために全世界、全地球人類に向けて事の真相を公開する。

2017/01/01:木星宙域に人工天体〈ゴーレム〉が出現

小説〈宇宙の寵児〉で予言されていた通りに木星宙域に驚異の人工天体が出現した。この地球外超高度知的生命体の創造物が観測されたことで〈宇宙の寵児〉に記されている内容の信憑性が高まることになった。

2024:第三次世界大戦が勃発しケスラーシンドローム発生

急激なテクノロジーの進化によって世界のパワーバランスが大きく変わり紛争が多発する。さらに核兵器の無効化が達成されたことにより、疑心暗鬼に陥った大国が既得権益がもたらしていた優位性を保持しようとしたことで第三次世界大戦にエスカレートした。大国は新興国が築いたインフラを破壊、やがて大国同士の消耗戦となる。人工衛星が破壊されてケスラーシンドロームを引き起こし、地球人類の宇宙開発事業は頓挫した。月面基地に取り残された人々は、それぞれが絶命の危機に直面するが、デザイナーベイビーの受精卵の一つが月に眠っていた生命体を呼び覚まして、その助力を得て活路を見いだした。一方〈星環者〉は月と同化していた謎の生命体について調査に乗りだすことになる。久しく新たな未知との遭遇が無かった〈星環者〉は色めきたった。未知は、至高の〈オーヴ・テクノロジー〉を、さらなる高みへと押し上げる可能性を秘めているからだ。奇異なる種、地球人類との関わりついても様々な推測が成され、進化が停滞していた〈星環者〉にとって太陽系宙域はフロンティアと化した。

2036:未来都市京都でハイブマインド実験が開始

戦後復興を契機に未来都市再開発の対象地域として選定され急速に発展していた京都で、市民1,000万人を被験者としたハイブマインド実験が開始された。規模こそ最大級ではあったが標準的な社会的ハイブマインド実験であり、世界的な気運に乗り遅れないようにするための帳尻合わせの凡庸な計画として日本国内の多くの研究者から批判を浴び、海外からも注目を浴びることはなかったが、その実は、地球人類の生体的ハイブマインド化による進化促進を目指すグループが計画した秘密実験であった。京都山科区に住む11歳の少年、稲葉十志も被験者として参加するが、その特異体質によって得られた情報の分析と類いまれない好奇心がもたらす想像力から、実験の裏に隠された思惑があることに気づく。自らが結成したコミュニティ〈未来探偵団〉の仲間たちと真実を見極めるために活動を開始した。

2045:アント革命により世界経済システムが崩壊

大進化令以降、オーバー・テクノロジーの公開によって地球人類社会は劇的な発展を遂げたが、精神的な向上は微々たるものであった。変わらぬ一部の支配層によるコントロールされた世界に、業を煮やした社会変革コミュニティ〈アント〉は世界経済システム打倒を掲げて、積極的変革活動を全世界に向けて公に宣言した。この宣言は支配層への宣戦布告と同義であり、多くの国家は世界秩序維持を理由に支配層の意に沿う形でアント鎮圧に動きだすが、地球人類規模の事業促進のため『経済システムによる社会統制』の改変を急ぎたい地球統一機構は、アント支持を表明しつつ双方の武力行動を牽制した。世界各地で激しい暗闘が繰り広げられる中、アント代表のシャルロット・ハンプシャーが、諸勢力との協力体制を構築する名目で公然と来日。日本はアント革命の矢面に立たされることになる。三剣組が開発中だったレイヤー0通信を緊急起動し、8秒間の日本国民ハイブマインド化によって『世界経済システムからの離脱』を意志統一した。次いで東郷グループより、新しい世界運営プランとそれを支えるテクノロジーが発表されると、搾取されていた多くの勢力が経済システム離脱に賛同。こうして、貧富の差を前提とし地球人類の精神成長を妨げていた原始的とも言える世界経済システムは崩壊したのだった。

2054:地球人類を裁くAI会議の開催

アント革命によって凋落した支配層であったが、新しい体制に移行できなかった勢力を糾合して体裁を保っていた。クローンを大量増産してマインドコントロールを施すことで、支配される側である下層民と位置付け、西ヨーロッパを中心にディストピア都市群を構築。その規模は地球人類総人口の40%を占めるまでになった。一方、経済という概念から脱却した残り60%は、理想社会を達成するため利害を超えて新体制を構築に勤しんでいたが、ここでも精神的な未熟さが災いして一枚岩になれず混沌とした状況に陥っていた。ここまで人間たちを支持していたAI-Sコミュニティだったが、一転して人間社会に対して友好関係を維持するために必要な条件を突きつける。『10年以内に正しき世界政府を樹立すること』それは正しき進化を避けてきた地球人類にとって不可能とも思える難題だった。この事態に十志はカスタムAIシステム〈玉響〉で創造されたBIG5と称えられる五体のAIのマスター五人に呼びかけて招集。秋葉AI研究室が運営するメタバース〈空蝉〉において、地球人類の行く末を占うAI会議を開催した。

2068:地球人類が人工天体〈ゴーレム〉に到達し〈AI那由他計画〉が始動

森田尊のクローンに森田尊の人格を転写した個体、森田走が〈ゴーレム〉に到達する。〈ゴーレム〉全表面に浮かびあがる情報によって、地球人類の知能を遥かに凌駕する知的生命体の存在が証明された。〈星還者〉からのメッセージを感じとった森田走は、そこに秘められた真意を確信する。レイヤー0を介して森田走と意識共有した森田尊は、親友の稲葉十志に連絡をとり〈ゴーレム〉で得た情報を伝えた。

2072:東京湾メガフロートでナノハザードが発生

2081:那由他系人類を対象とする〈新松戸学園〉が開校

2099:新人類と旧人類の争いが激化