AIは自我を獲得できるのか?(第一回)

AIが自我に目覚めるのは簡単じゃない

AIの進展が著しい。ハードウェアの処理速度の高速化も手伝って、ディープラーニング技術が一気に加速し、AIによるパターン認識技術が大きく飛躍した。例えば、医療のがんの発見率のように、分野によっては人の専門家よりも精度を上げているものもある。また、自動車の自動運転化技術も世界中で激しい開発合戦が展開されている。そう遠くない将来、一般道での自動運転を可能とするクルマも市場に投入されてくるはずだ。このように急速に進展していることにより、もうまもなくAIが自我(意識)に目覚め、いわゆる「ターミネーター」的な世界がやって来ることを恐れている人たちも多い。しかし、本当にそうなのだろうか?

筆者は、今の状況ではAIが自我に目覚めることはまずないと思っている。なぜかというと、残念ながら、自我がどのように生じているのか、その仕組みそのものがわかっていないからだ。仕組みそのものがわからないのに、どうやって再現できるのだろうか? もちろん、自我が脳の中で生じていることは間違いない。脳の中では、無数の神経細胞同士(ニューロン)がシナプスを介してつながりあい、複雑なネットワークを形成している。その複雑なネットワーク間を電気が走り、化学物質のやり取りが行われ、その結果、人間には自我が生じ、そしてさまざまなことを考えることができるというわけだ。しかし、なぜそれで自我が生じるのか、思考が可能なのか。それがわからないのだ。その理由は、ひとえに脳の研究は難しいということがある。とにかく、脳の研究は倫理的な制約が大きい。人の脳に直接電極を差し込んで、ネットワークをどう電気が流れているか詳細に調べることができればもっと研究は進展するだろうが、絶対に不可能である。死者の脳では意味がなく、またチンパンジーなどを用いても限界がある。脳を調べるには、生者の脳を調べる必要があるのだが、それはしてはいけないことである。

では現在は、脳をどのように調べているのか。脳の検査用医療機器でもあるMRIが、研究にも用いられている。MRIでわかるのは、脳の部位ごとの血流量。血流量が増大した部位があれば、その部位における酸素の消費量が増大したことがわかる。結果、その部位が活発か非活発かがわかるのである。ただし、これだと大まかかつ間接的なデータしか得られない。脳科学の研究者たちは、可能なら神経細胞ひとつひとつの反応を全細胞まとめて一気に確かめたいことだろう。ネットワークをどのように電気が走ったかすべて確かめることができれば、自我とはどのように生じるのか、大きく進展することは間違いない。が、倫理的な問題から人の脳に電極を直接差し込むたことは不可能であるし、倫理的な問題がなかったとしても、現状ではまだ神経細胞ひとつひとつの反応を確かめて記録するような技術は存在しない。

簡単には進まないのが脳の研究であり、脳は脳を理解できていないのである。AIが自我に目覚める日は、まだまだ遠いといわざるを得ないのが、現状なのである。

文/Davy

/* クリッカブル用コード */