神様的な上位存在が与えたメタバースの中で、地球人類のような下等存在が浅知恵ながらも試行錯誤を繰り返し、それぞれの世界線を分岐創造して、それらが束になって宇宙になる話。

現在に残っている歴史なんて過去に起きたことの、ほんの一握りでしかない。さらに勝者が隠蔽したり改竄したりと、真は薄れて欠けて盛られて捻じ曲げられている。そんな歴史だけに立脚して真面目に考える行為など創作手法としては幼稚としか言えない。妄想の対象として、過去は未来に劣らぬ膨大な領域があるのだと知る。ただし、歴史としての正解は分からないからセンスは問われる。さらに過去に生きた人たちも歴史捏造におけるセンスを気にしていたと前提にするべきで、センスよい歴史を構築することを意識して妄想すべきだろう。もともと歴史は好きだったがシミュレーションゲーム『信長の野望』をプレイしてからは歴史IFばかり考えていた。そのうちIFという妄想はアホらしくなって、歴史の裏に潜みそうな妄想を組み立てて真実として表の歴史に繋げてみることが面白くなった。そこに真実の一端がありそうな手応えもあった。

今『ハイブマインド・クロニクル』で妄想史を捏造してるわけだが、面白さのベクトルとしては裏の歴史を考察する面白さに非常によく似ていると感じている。SFであり科学的であることがリアルと接点が多いことが原因の一つだろうけど、単に捏造物量が一線を超えたことで妄想史の存在感が増してきたからだと思う。妄想史は正史に変貌することができるのである。でも、まだまだだ。さらに捏造して、さらに検証を重ねる必要がある。他者に自信をもって共有できてこそ妄想史は物語の素地と成り得るのだから。

現実世界を神の如き上位存在が創ったメタバースであることを完全否定できない限りは、少なくとも自分の創作はメタバースの中で行われている可能性がある。メタバースという実験場の中で行われていることも世界線の一つであり、そこから生まれた無数の分岐は束ねられて、うねりとなる。この大宇宙の中で地球人類の一人として生まれ落ち、ちょっとした物語を妄想している己は何者なのか?……答えを得られる術はないが、そんな風に思いを馳せることは少々変わった作品を紡ぐテクニックにはなりそうではある。

主要登場人物の一人『明智天快』は大宇宙の森羅万象に触れることができる存在として描く構想だが、その能力を得られるまでの期間(不死的になるので、それはそれは長い期間となる)を、一個の人間として成長させるアイデアが物語全体を深掘りするための鍵となるだろう。でも、それを促している存在は別にいるという……そんな妄想を繰り返している。